MONATOとは、エスペラント語で「月」という意味で、
禅語の「掬水月在手」に由来します。
「掬水月在手」とは、手に水を掬うと、その水面に月が映っているという情景を詠ったもので、月に心を寄せて鑑賞する心の余裕の大切さや、
月(自然)と渾然一体となる喜びを伝えています。
この言葉にある手の中の情景や月を観るときの心持ちは、自身が漆を用いて金継ぎと向き合う時に捉えている感覚や感触と重なります。
また、「月」は、花鳥風月の一つで、心を和ませてくれる風物の代表でもあり、古くから和歌にも度々詠まれるほど人々に愛でられてきました。
日々うつろう月に、美や無常を感じたその心が、東洋独自の美意識や精神性を育み、「金継ぎ」という文化を生んだと私は見立てています。
MONATOでは、こうした手の中の月を観る時のような穏やかな心地や感覚を、お直しした器や教室を通して体感してもらうと共に、金継ぎの背景にある美意識や精神性について学び、体現して行きます。
MONATO
志村いづみ
2014年に出生地の山口で金継ぎに出会う。
2年間のフランス滞在を経て、2018年より千葉県香取市を拠点に活動を本格的に開始。2024年屋号をMONATO とする。
金継ぎの金の下は、全て天然素材である漆を何度も研ぎ重ねたものです。漆は、日本の梅雨時期の気温と湿度で硬化する天然素材です。湿度を含みながら硬化した漆は、堅いけれどしなやかで、しっとりと手に吸い付くような、大変魅力的な素材です。
修繕した器からは、そういった水の気配や自然の心地よい流れが感じられるよう、金や銀の箇所からは、空に浮かぶ月のような、控えめで穏やかな光となるよう、1点1点丁寧に修繕しています。
教室では、直したい器やそれぞれのペースに合わせ、修繕の技術をマンツーマンでお伝えしています。手の中で、ご自身の愛用の器が蘇る過程や、目の前の手仕事に没頭することで、頭の中に少しの余白が出来る時間を共有できることを願っています。
室町時代の茶の湯の文化の発展とともに生まれた金継ぎには、当時の人々の持つ精神性・美意識・死生観の全てが映し出されています。
また、古代から外国の様々な文化を受け入れ、日本独自の文化を創ってきた、異質なものを和やかに調和させる「和」の思想が、金継ぎの根底にもあると考えています。こういった、金継ぎという文化の背景にある人々の心や感覚を、歴史とともに学びつつ、皆さまに分かりやすく伝えていけるよう努めてまいります。
出版書籍
2021 MANUEL No 01 Kintsugi, l’art de la restauration de la céramique à la laque et à la poudre d’or